2020年 1月 の投稿一覧

糖尿病患者が海外旅行に行く際の準備事項と注意点

国内旅行に比べ海外旅行は時差や環境、食べ物などが異なるため、糖尿病患者の方は海外旅行の際に注意しなければいけない事項が多くなります。
国内旅行に行き慣れている方でも海外旅行に行く際には注意が必要です。しかし、しっかりとした準備や計画をすることで健常者の方と変わらぬ旅を送ることができます。

今回は海外旅行に行く上での注意点や準備事項、充実した海外旅行を満喫するために役に立つ情報についてお話ししていきたいと思います。

1.旅行への準備

・スケジュールには十二分に余裕を持ちましょう。
・航空会社に糖尿病と証明できるように英文のDDB(Diabetic Date Book)を活用しましょう。
・旅行スケジュールに沿った薬の調整方法や注射計画をあらかじめ主治医の先生と相談しておきましょう。
・航空機内ではインスリン注射を行えない場合もあるため、あらかじめ航空会社にインスリン注射を投与していることを伝えましょう。  
・インスリン注射は温度管理が重要なので必ず注射は手荷物として機内に持ち込みましょう。
・インスリン注射を行う際の皮膚の消毒のためにアルコール綿を持参しましょう。
・糖尿患者だということを航空会社にあらかじめ伝えることで、糖尿病患者用の機内食を用意してくれます。
・低血糖の場合に備え糖質の入った飲料を持参しましょう。

海外旅行持ち物リスト

<海外旅行の際の持ち物リスト>

・常備薬(酔い止め、整腸剤、便秘薬 etc.) 処方箋のコピー及び薬の説明書
・診断書(英文)
・医療保険証
・海外旅行傷害保険証
・インスリン注射器及び予備
・インスリン注射計画証
・DDB(Diabetic Date Book)、糖尿病連携手帳
・血糖測定機器及び試験紙やその他の機器
・血糖測定機器及び試験紙やその他の機器の電池の有無
・アルコール綿などの消毒液
・使用済みの注射器などの廃棄袋
・糖質の入った食料(チョコ、飴、ビスケット etc.)
・血糖値自己管理ノート

2.フライト中の注意点

長時間のフライトになるほど身体にかかるストレスは大きくなります。
また長時間の座りっぱなしはエコノミークラス症候群という歌詞が圧迫され血流が悪くなり血栓ができてしまう恐れがあります。なので、こまめに姿勢を変えたり、トイレを利用したりして工夫するようにしましょう。
また、低血糖の際に備え糖質入りの飲料や食料を機内に持ち込みましょう。
機内での血糖測定器の使用は可能ですが、離着陸時は使用ができない場合があるので、あらかじめ客室乗務員に聞き、使用可能な時間にのみ使用するようにしましょう。
インスリン注射後の使用済みの針などは、持参した廃棄袋に廃棄し持ち帰るようにしましょう。

3.現地での注意点

海外旅行では必ず時差が発生します。
時差によって普段の食事や薬のタイミングがずれてしまうことがよくあります。主治医の先生と相談した食事や薬の投与の計画をしっかりと守るように心がけましょう。

旅先では様々なイベントや普段とは異なる環境により『食事が食べられなかったから』という理由でインスリン注射を自らの判断で中止する方がいらっしゃいますが、絶対に自己判断での注射の中止は行わないようにしましょう。
食事がやむをえずとれなかった場合は自己血糖測定の上、あらかじめ主治医の先生と相談した計画を行うようにしましょう。

旅行を十分に楽しむには体の健康が第一です。こまめな休息や良質な睡眠をとり、しっかりとした体調管理を行いましょう。
万が一体調を崩してしまった際には、早急に現地の医療機関を受診するようにしましょう。(現地に着いたらまず最寄りの医療機関の場所を把握するようにしましょう)

4.最後に

せっかくの海外旅行を体調不良で台無しにしてしまわぬように、しっかりと準備を行い適切な体調管理を心がけましょう。
これから海外旅行に行こうと考えている方々、充実した旅ができることを願っています。

糖尿病治療においての食事療法でのアプローチとは

糖尿病の治療方法には幾つかの種類があるのはご存知だと思います。食事療法や運動療法、インスリンの注射などの薬物療法などがあります。今回は不規則な生活や、偏った食生活などが要因となり発症する2型糖尿病への治療法として、一番基本的な食事療法をピックアップしていきたいと思います。

食事療法と聞いてなんとなく頭に思い浮かぶものがあるかもしれませんが、バランスの良い食事とは、どの食べ物をどのくらいの量食べれば良いのか、食べてはいけないのか、気にして食事を摂っているのになかなか改善されないなど、正確に理解している方は少ないのではないでしょうか。

様々な疑問や注意点を踏まえて糖尿病の食事療法について解説して行きたいと思います。

1.食事療法が糖尿病治療に与える効果とは

型糖尿病患者の場合ほとんどが食べ過ぎ飲み過ぎなどによるエネルギーの過剰摂取や不規則な生活習慣によってインスリンが効きにくくなり血糖値が高くなってしまいます。
適切な食事を摂ることでインスリンの働きを促進し、全身の代謝異常や血糖値の上昇を良好に保ち、合併症の発症や予防をすることができます。

2.食事療法を行う上での三つのポイント!

①適切なエネルギー量の摂取

適正体重を維持するにあたって、日常生活を送る上での必要最低限のエネルギー摂取に抑えることで、過剰なエネルギー摂取を予防します。
年齢や性別、身体活動量などを考慮して、男性は1600〜2000kcal女性は1400〜1800kcalを目安とします。

*摂取エネルギーの算出方法

摂取エネルギー=標準体重×身体活動量

*標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22

*身体活動量(kcal)

・デスクワークなどの軽作業の職業 25〜30kcal

・立ち仕事が多い普通の職業 30〜35kcal

・力仕事が多い職業 35〜kcal

例 事務職の男性Aさんの場合(身長170cm、体重70kg

標準体重:1.7×1.7×22=64kg

身体活動量:25〜30kcal

1日の摂取エネルギー量:64kg×(25〜30)kcal=1600〜1920kcal

②バランスのとれた食事

バランスのとれた食事とは、炭水化物(ご飯やパン、麺類)、タンパク質(肉や魚、大豆製品)、脂質(油脂、ナッツ)、ビタミン(果実や野菜)、ミネラル(果実や野菜)の5大要素を過不足なく1日の摂取エネルギー量内で摂取することのできる食事のことを言います。

エネルギーの元となる炭水化物、タンパク質、脂質の摂取割合としては、下記の割合で摂取することを推奨しています。これらにビタミンとミネラルを合わせて摂取することでバランスをとることができます。

③朝昼晩の1日3食

朝昼晩の1日3食と聞いて当たり前のことだと思うかもしれませんが、食事の時間1回の食事のエネルギー量食事の間隔など気をつけるポイントがいくつかあります。

朝昼晩の1日3食を推奨する理由としては、欠食をすると一度に多くのエネルギーを摂取してしまう恐れがあり血糖値が急上昇しやすくなってしまいます。
また三食とは別に間食を入れてしまうと、もちろん血糖値は上昇してしまいます。
1日3食で食事量を均等にする
食事の間隔を4〜5時間あける(食後の血糖値が4〜5時間で戻る)
夕食は21時までに済ませる(翌朝の朝食の高血糖を避けるため)
この三つのポイントを抑えることで食事での高血糖状態を防ぐことができます。

3.糖尿病患者向けのお勧め食事レシピ

食事レシピ1:鶏ササミとニンジンサラダ
<材料>
ササミ・・・3本
ニンジン・・・中1本
塩麹・・・大さじ1
料理酒・・・大さじ1
黒胡麻・・・適量
マヨネーズ・・・大さじ1
簡単酢・・・大さじ1
<作り方>
1 ニンジンは細切りに、レンジで2分ほどチンしてから簡単酢をかけます
2 ササミは料理酢と塩麹に20分以上つけて、レンジで3分くらいチン。粗熱が取れたら筋を取ってほぐす。
3余熱で全体に火が入るように最小限の加熱時間に抑えてください

食事レシピ2:糖質オフドーナツ
<材料>
水切り豆腐・・・150g
ホットケーキミックス・・150g
スキムミルク・・・20g
エリスリトール・・・30g
黄身・・・1個
<作り方>
1 豆腐はしっかり水切り後、クリーム状にしてエリスリトールと混ぜる
2 ホットケーキミックスに黄身を混ぜてこねる
3 手に米油を塗って小さく丸める
4 150度の油できつね色になるまで揚げる

4.まとめ

食事一つを取ってもこれだけの注意点やポイントがあります。今回お話ししたことを全て、すぐに実行することは難しいかもしれませんが、何か一つでも食事の摂り方を変えて継続し、少しずつ改善に向けて進んでいってほしいと願っています。
努力は必ず報われるという言葉がありますが、私は、報われない努力はないという言葉の方が適していると思います。
ご自身を信じて食事療法にも取り組んでみてはいかがでしょうか。

糖尿病を抱えるアスリート

『糖尿病を抱えるアスリートたちはなぜプロスポーツで活躍できたのか』

 世界には1型糖尿病を抱えながら様々な競技で今もなお活躍しているアスリートが多くいます。糖尿病と聞くと、もうスポーツを続けることはできないと考えがちですがそうではありません。確かにスポーツを続けることは簡単なことではありません。しかし様々な苦悩を乗り越え努力することで、発症する前と同じようなパフォーマンス、あるいはそれ以上のパフォーマンスをすることができる可能性があるのです。今回は、現在も1型糖尿病と戦いながら競技を続けているアスリートの方々を紹介していきたいと思います。1型糖尿病を抱え自分がこの先も大好きなスポーツを続けられるか不安な方々に、少しでも勇気や希望を与えられれば幸いです。

 

1.ビル・ガリクソン 『プロ野球選手、メジャーリーガー』 (1998現在60歳)

 21で1型糖尿病を発症した彼は、1997年のMLBドラフトでモントリオール・エクスポズに1位指名で入団し、その後はシンシティ・レッズやニューヨークヤンキースで活躍。その後1998年に日本の読売ジャイアンツに入団。当時日本では糖尿病を抱えながらスポーツを続けることは不可能だと言われていたが、ビルが自らインスリンの注射を打ちながらプレーしていたのは衝撃的でした。そして、糖尿病を抱えていることを感じさせないプレーで26試合に登板し14勝を挙げ、防御率3.1014完投3完封と活躍しました。彼は『ナンバーワンのプロ野球選手、ナンバーワンの糖尿病患者になる』をモットーとし、インスリン注射や食事管理の徹底を行いました。周りの選手が故障していく中、病気のおかげで自己管理がしっかりしていたビルは全く故障することはなかったそうです。

 彼は年棒以外の副収入全てを糖尿病研究に寄付し、その栄光が称えられ、社会貢献をした小児糖尿病患者を表彰するための『ガリクソン賞』を制定しました。

 

2.チャーリー・キンポール 『カーレーサー』 (1985.02.02 現在34歳)

 彼は9歳でゴーカート、16歳でカーレーサーとしてデビューしました。しかしその5年後の22歳で1型糖尿病を発症しました。当時の担当医に「レースを続けられるか?」と尋ねた際に「できない理由なんてないよ」と背中を押された彼は「前例がないなら僕が前例になる」と決意し、病と闘いながらレースを続けることを決めました。

 カーレーサーはレース中にスピード、ラップタイム、ギアなどで自分の車の状況を見るが、彼はそれに加えて持続血糖モニターで自分の血糖値を確認しながらレースをしていました。レース中は車から出ることはもちろん、タイムアウトを取ることもできないので糖分の入ったドリンクを車に搭載し、低血糖になってきた際はそのドリンクを補給することで安定した血糖値を保っていたといいます。その後も彼はインディ500という800キロものレースで好成績を収めるなど発症後も活躍することができています。

 

3.大村詠一 『エアロビック選手、日本代表』 (1986.02.07 現在33歳)

 4歳からエアロビックを始め8歳の時に1型糖尿病を発症しました。10歳の頃にエアロビック競技に転向し、20022003年にユースの部で世界一、2002年にはその活躍が称えられ『ガリクソン賞』を受賞、2008年には一般の部男子シングルスで日本一になるなど発症後も活躍し続けました。大村さんの場合はインスリンが分泌されず、何も食べなくても血糖値が上昇してしまうそうです。また、エアロビック演技の前に緊張すると血糖値が上がり演技直前まで血糖値は上がり続け、演技が終わった途端に血糖値が下がる傾向があるそうです。そのため様々な種類のインスリンの注射を使い分けて緊張などによって上昇してしまう血糖値を調整しているそうです。

 また、自分が糖尿病であることを打ち明け、そういう話をできる人を見つけることがとても大事だとおっしゃっています。大村さんもチャーリーのように『僕の前に道はない、僕の後ろに道はできる』と、現在も精力的に活動しています。

 

4.杉山新さん 『プロサッカー選手』 (1980.07.25 39歳)

 杉山さんは23歳の時に1型糖尿病を発症しました。1999年に柏レイソルでプロキャリアをスタートさせるも試合になかなか絡むことができず、2003年にヴャンフォーレ甲府に移籍しました。その直後1型糖尿病を発症し戦力外通告を受けることになってしまいました。しかし練習生として2ヶ月の猶予が与えられその期間で結果を出せば再契約できることになりました。猶予を与えられたからといっても大変なことばかりでした。インスリンの注射もトイレに行って隠れて打っていたことや、悔しさや虚しさに押しつぶされそうになり精神的に厳しい時期があったようです。

 しかし、家族や仲間、サポーターなどからの支援もありもう一度チャレンジすることを決めました。まずは自分がどのくらい走ったら血糖値が下がるのかを、グランドを1周するごとに血糖値の測定をし、その繰り返しを何度も何度も行い自分の体を理解していきました。それを繰り返していくうちに自信を取り戻していき、プレーに支障がないことをチームに証明することができ、再びプロの世界へと舞い戻ることができました。その後も大宮アルディージャや横浜FCで活躍するなど第一線でプレーし続けることができました。杉山さんは『自分さえ諦めなければ、必ず、夢は実現できる。』という言葉を残し、同じ糖尿病患者の方々に勇気と希望を与え続けています。

 

5.岩田稔さん 『プロ野球選手』 (1983.10.31 36歳)

 大阪桐蔭高校2年次にエースとして大阪府大会準優勝、近畿大会ではべスト8に導いた矢先に1型糖尿病を発症しました。高校卒業後は社会人野球リーグでプレーする予定でしたが、1型糖尿病もあり契約は白紙となり、関西大学に進学しました。しかし、当時の阪神タイガースのスカウトマンの目に止まり、最速151キロの速球や多彩な球種を持ち味とし、2005年のドラフト会議で阪神タイガースに入団することができた。そして2009年にはWBC(ワールドベースボールクラシック)に日本代表として優勝に貢献しました。

 糖尿病を患った当時、岩田さんはビル・ガリクソン投手の著書で「薬で血糖値をコントロールすれば、普通の生活はもちろん、スポーツを諦める必要はない」という言葉に胸を打たれ、14、5回のインスリン注射に加えて、先発、中継ぎ、抑えで投げる登板のタイミングに合わせて血糖値の値を調整し、また、運動量が減ると血糖コントロールが難しくなるらしく、オフの日でも完全に休養を取る日は少なく常に体を動かすなど工夫を凝らし「これで負けていたら、社会で生きていけない。絶対負けない」と心に決め努力を続け諦めない事で夢は叶うと証明してくれました。

 

最後に

 今回ご紹介した方々に限らず、1型糖尿病を患いながらもスポーツを続けている方々に共通して言えることは、絶対に諦めないこと、そして努力し続けているということです。糖尿病を患ったことで何事にもマイナスに考えてしまうのではなく、病気と向き合い絶対に諦めない気持ちを強く持つことで必ず夢は叶うと。
そしてご自身が成し遂げたことを、また次の世代の糖尿病患者さんに伝えていくことで、同じ病気で苦しむ方々に今度はご自身が勇気と希望を与えることができます。

決して簡単なことではありません、苦しいことの方が多いかもしれません。しかし、その苦しんだ分の何倍も大きくなった喜びや幸せが訪れると、私は信じています。